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■03



 本筋から思考が逸れたが、僕が何故にアリストテレスだかの言葉を思い返したかと言うと、この世界に来て以来、物事を考える事が多くなった為です。
 その分、頭痛が増した訳なんですが――この世界は如何にもおかしい。とてつもなくおかしい。
 元から解っていた事ではありますが、つくづく実感してしまうが故にだ。
 つい先程の事ですが、僕は本屋に立ち寄った。
 祖父様である中常侍の『曹騰(そうとう)』様の所へ向かっていた途中、思ったよりも時間に余裕がありそうだったので、何か面白い本が無いかと覗いたのだ。
 この時代の本と言えば『小説』や『漫画』等の所謂『娯楽』に為りそうな本が無いように思えるかも知れませんが、この世界に関して言えば否定せざるを得ない。
 
 赤子の時代から印刷技術の高さを常々不思議に思っていましたが、実際に本屋に立寄ってみるとこの世界の異質さが際立って見える。
 竹簡の物も確かに多いですが、人気の商品や雑誌は『紙』で出来ており値が張るとは言え比較的安価で売られている。
 書籍の内容は『孫子』や『韓非子』と言ったものから『阿蘇阿蘇』と言ったファッション雑誌、『一から始める房中術』『How to 海賊王』等と言った内容の奇抜な書籍。
 しかも、男性向けのエロも百合もBLもある存在する、中々業の深い世界です。
 ちらっと腐界――基本的に女性が多く生息している――を覗いた際に見た「李斯×韓非」って誰得なのでしょうか。
 
 正直な話をすれば、元の世界よりも目新しくて面白い書籍が多い様に思える。
 最初の頃は本に書かれている文字が日本語では無かったので、勉強に使われる内容の硬い本しか身近に無くて気が付きませんでしたが、文字の読み書きがある程度出来る様になり、積極的に書籍を読み漁る頃にはそう思えてきました。

 他にも技術のインフレが起きているのは書籍以外にも多く存在し、特筆して上げるならば、この時代の物とは思えない衣服やフィギュア等の玩具でしょう。
 流石にプラスチックやポリエステル等の素材は存在していませんが、それでも時代背景を無視し過ぎの代物が沢山存在しています。ここまで破綻していると、逆に清々しく思えてくる程です。
 『三国志(よそ)』は『三国志』、『この世界(うち)』は『この世界』――そう言うものだと納得出来るのが凄い所でしょう。

 未だ困惑を残す物のこの世界に馴染んできた実感しながら、目的地へと進む道中で何とも言えない溜息を思わず零したのであります、まる。






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