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■02



 ――人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である。
 ソクラテスかパスカルかは忘れたが、実に薀蓄の含まれた言葉です。
 その言葉を、僕はしみじみと噛み締める。
 本質を理解して居るかと聞かれると返答に困りますが、若い僕には胸に込み上げるものがある。中身が既に三十代を過ぎては居るので『若い』と言う表現は可笑しいのかも知れませんが、だからと言って自分が精神的に成熟した大人になっているかと言えばそうでもありません。

 むしろ、その逆です。
 知識や経験は増えましたが、精神面では十代後半に戻ったような若さを感じます。

 『転生』や『逆行』物の小説に良く書かれている「精神年齢は肉体年齢に依存する」と言う仮説を証明する訳ではありませんが、『精神』が『肉体』に引っ張られる形で、随分と思考も行動も衝動的になりました。
 底から滲み出る肉体的な活力、爆発しそうな体力、溢れ出す性欲、子供として過す日々、未知への好奇心、刺激される探究心。
 どの要素も精神的に若返る要素はあっても、老け込む要素は皆無なので当然と言えば当然かも知れません。
 もっとも、そう簡単に言い切れる問題だけではない――実際に突き付けられた『この世界』の事実に死にたくなった事もあるのですが、それらが多大な影響力があったのは事実でしょう。





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